*Chapter 3* 惰性

パブロフの犬。




街中でピンクのラパンを見かけると、いつも決まって相沢を思い出す。




青いデミオを見ると、石田だ、と思う。
あいつと行ったレンタルビデオ屋の駐車場まで浮かんでくる。




全く馬鹿馬鹿しい。
ここは東京なのだ。
あいつらがこんな所で車を運転しているわけがない。







俺が育ったのは、ここから遠く離れた海沿いの小さな町。




ばあちゃんと母親と姉ちゃんと俺の4人暮らしだったけど、母親は外に男を作って滅多に帰って来なかったし、帰ってきたとしても昼間から発泡酒の缶握りしめて、ばあちゃんと言い争ってるだけだから居ない方がマシだ。




姉ちゃんはデブでブスで引きこもり。
だからあいつも居ない方がマシだったけど、俺が高校1年生の時に母親と大喧嘩をして家を出て行った。




後でばあちゃんから聞いた話だと、母親からやれ引きこもりだの、金食い虫だの、ブスだのと口汚く罵られた挙げ句、「気持ち悪い」とまで言われて激昂したのだそうだ。




そんなの全部ほんとの事なんだから、そう言わるのが嫌なら、働くなり、せめて痩せるなり、自分でなんとかすりゃあ良い。
全く馬鹿らしい。




俺はばあちゃん以外の奴らは特に家族だとも思っていない。居ても居なくても同じだし、俺は今まで誰かのことを特に好きだと思った事がない。




それなりに仲の良い友達は居るし、俺の事を好きだと言う女子の何人かと付き合ってみたものの、どれもすぐに別れた。




あいつらはみんな所詮、自分の事を好きな奴が好きなだけだ。




一人じゃ手持ち無沙汰だから、自分の事を好きだと言ってくれたり、自分に興味感心を持ってくれる奴の事を好きだと思い込んで、乳操りあうことを愛だと思っている。




馬鹿馬鹿しい。
世の中には馬鹿馬鹿しいことが多すぎる。




と言いつつ俺も、ただ自分が馬鹿だって事に気付いているだけで、だからって何をするわけでもないから、結局はそこらに居る馬鹿達と同じだけど。




いや、もしかすると、自分が馬鹿だって分かっているのにそれでも馬鹿のままという事は、自分が馬鹿だって気付いてない奴らよりもよっぽど馬鹿なのかもしれない。




くだらない。
こんな事を考えてたって何にもならないのだ。




俺は自分のくだらなさにも、他人の馬鹿馬鹿しさにも耐えられない。






だから何も見ないように、何も考えないように、一日中大学の図書館で本を読んで過ごす。




特に本の何が面白いというわけではない。
俺にとっては、図書館に篭って本を読み耽るというその行為だけが重要なのだ。




真ん中に仕切りがついた6人掛けの長机、あれの左から2番目のやつ。
そしてさらに、そこの窓側の右端の席。
これが俺のいつもの席。




俺が図書館に行くのは昼ごろになってからなのに、何故かこの席だけはいつも申し合わせたように空いていて、俺はいつもそこに座る。






今日もこれからあの席に座って、しんとした館内に空調の稼動する音がごうごうと低く蠢いているのを聞くのだ。




繰り返しのくだらない日常。






11時43分。
時間もだいたいいつも通り。




ごうーんと音をたてて左右に退く自動ドアを通り抜けて、改札みたいな入り口に学生証をかざす。




ピッという電子音とともに、館内への通路が開く。




受付のオバさん達もいつもと同じ顔触れだし、入り口の脇に置かれたけばけばしい黄緑色のソファーも、いつもと同じ角度でカーブを描いている。




昨日と変わらない今日。




丈の長すぎるシャツみたいなワンピースを着た背の低い女とすれ違ったら、昔付き合った女がつけていた香水と同じような匂いがした。


01/24 21:30

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