*Chapter 2* 24度目の冬

ドアポストに差し込まれた郵便物が、ちいさく控え目に、カタン、と冷たい音をたてて郵便受けの底に着地した。




カッターナイフでスッと切り込みを入れるみたいに、わたしの世界の膜はハガキの横幅ぶん、ほんの数センチの切れ目を入れられて、


その切り口から、「外」がやわらかいゼリーのように、ドロンと一塊流れ込み、部屋の空気と混じり合って空中に薄く散った。




なんて暴力的なのだろう。
郵便物は、天敵だ。まるで暴漢だ。




このアパートには8つしか部屋がないので、マンションのエントランスでよく見かける、あの蜂の巣のように配列された郵便受けはなく、


郵便物は各部屋のドアに備え付けられたちいさなドアポストに差し込まれる。




うすい壁と分厚いドアで仕切られたこのちいさな空間は、まるで子宮のように心地好く、懸命にわたしを守ってくれているのに、


ここはわたしだけの空間、わたしだけの世界であるのに、


忌ま忌ましい郵便物は、突如としてやってきては、わたしの世界の膜に穴を開けていく。




そこからほんの一塊流れ込んだ「外」にさえ馴染めないわたしが、どうしてこの部屋から出ることが出来よう。




「引きこもり」。


なんとも厭な言葉だ。
字面と響きからして、もう既に醜い。




そんな醜い称号を負わされたせいで、わたしは増々醜い。




「醜い」。
わたしを説明するのに、これ以外の言葉は要らない。


わたしは「醜い」の一言でもって説明され尽くしてしまう。




醜い。
わたしはあまりにも醜い。




小さい頃から母親によく「ブス」と言われてきたが、わたしは「ブス」ではない。醜いのだ。汚れているのだ。




己の醜さを恨み、わたしを醜くく産んだ母親を恨み、綺麗な女を恨み、信じていない神様までも恨み、


恨み、嫉み、嫌悪は、やがてわたしの心までも汚泥にしてしまった。




醜さを憎む心は、いつからか美しさを畏れるようになった。


わたしに何かひとつでも「美しい」があれば、それはわたしの醜さを際立たせてしまう。




流行りの可愛い洋服を着れば自分の醜さが際立つので、ダサい格好をしたり、


太っているわけでもないのに醜いのは情けないので、暴飲暴食を繰り返してぶくぶくと醜く太ったり、


わたしは自分を「醜い」で固めることに専念した。




醜さの固まりと化したわたしは、この醜い世界に閉じこもり、吸気から醜さを取り込み、呼気へ醜さを排出して、一秒毎に醜さを濃縮しながら生きている。




いつしかわたしは醜さに窒息して死ぬだろう。




外はもう、24度目の冬だ。


12/08 01:16

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